Friday, October 5, 2007

シリコンバレーのベンチャーキャピタル① 

Date: 3 Oct 2007
Place: Financial place, San Francisco
Purpose: バイオ系ベンチャーキャピタリストインタビュー
People: 権藤尊睦様
   (学術博士。日系大手メーカー入社、現在Burrill&Companyで勤務)
Keyword:’血尿’ ‘LP’‘技術デューデリ’ ‘personalized’ medicine ‘’

シリコンバレーインタビュー第一弾。アメリカの大手バイオ系ベンチャーキャピタル(VC)のBurrill&Companyの中で日系メーカーのLP社員として働く権藤さんにインタビュー。以下掲載分は権藤さんに了解をとってあります。

1 権藤さん
2 Burrill&Companyとは?
3 投資手法(投資までの流れ、デューデリジェンス、投資サイズ)
4 バイオベンチャー投資の特徴と今後の流れ
5 感想


1 権藤さん

権藤さんは32歳のイケメン。こんがりゴルフ焼けしているが、とても清潔感がある。金融マンらしくストライプのシャツ&スーツ。さらに元研究者とは思えないくらい社交的。中身も外見もカッコイイビジネスマン。九州男児らしくお酒が好きで週3で飲んでいるとの事。インタビュー後飲みに連れて行ってもらったがビール、日本酒、ワイン存分にのんでいた。コッコイイ

大学院博士課程で食中毒を研究していた権藤さんはドクターまでいきながらなぜか就職活動時の第一志望が某ラジオ局。しかし偶然が重なりレンズを得意とする現医療機器メーカーへ就職。

約1年間実験を続けていたが、研究開発部門からシリコンバレーで新規事業のネタを探すため投資事業チームに抜擢された。シリコンバレーに渡り、ゼロからネットワークを気づき上げ、何十社もVCを回り、理想的な投資先を探した。

Burrill and Companyとかなりよい条件で投資をクロージングさせ、LP出向のアドバイザーとしてファンドに参加。日本人がほとんどいない業界の上、権藤さんのポジションを考えると若すぎる年齢と条件は厳しかった。だが血尿がでたほどの2年半に及ぶ努力の結果だんだん認められるようになって、ベンチャーキャピタリストとしても一流になった。


2 Burrill and Companyとは?

 Burrill and CompanyとはVenture Capitalを主軸にInvestment Banking、Publicationの3つのサービスを提供するプロフェッショナル集団。バイオ系VCとしては業界2nd tier。現在3つの主要なファンドを抱え、サイズは総額約1,000億円。投資銀行やメディアチームを含め総勢50名近くのスタッフを抱えVCとしては非常に人数が多い。



Burrillの特徴①ヒューマンリソースの外部調達

 Burrillは特有のファンドのスキームを持つようだ。普通のVCは出資者がLP(Limited Partner)と言う形でファンドに出資し、ファンドはLPから金だけをもらい投資をする。投資スタッフは業界でスゴイ人たちを中心に、10人以下の少人数。LPに対しては年に1度~数回投資方針、投資結果などを連絡。

Burrillの場合はそれに対し社員50名。LPからの出資を受けると共にアドバイザーとして人も受け入れている。権藤さんはこのポジション。LPの構成は専門性の強いメーカーなどが中心で血管系疾患、癌、炎症性疾患などの治療薬を開発している創薬メーカーが主流。診断系メーカーも参画している。

医療・ヘルスバイオの中でも少しずつ分野を変えて、1社づつ被らないように出資をつのりシナジーを生み出している。結果として広い分野をカバーするため人数が多くなる。そして週に1回LPへの報告を兼ねてアドバイザーを交えた投資Mtgを行う。

このスキームの優れた点はファンドと出資者のWin-Winが成り立つこと。VCとしては、スーパーベンチャーキャピタリストを自社で抱えなくても他社リソースを上手く活用できる。出資メーカーとしてはVCに集まる最新情報を利用して技術のファインディングができる。


Burrillの特徴②多量の審査案件

 多くのVCは少数のパートナーのネットワークから質の高いごくわずかな投資案件を審査する。Burrillでは年に800件近い案件を審査している。創業者G. Steve Burrill氏がアーネストヤング出身でバイオのバックグランドをもつ専門家ではなかったことが始まりだ。

スーパースペシャリストでないため情報が集まってくるネットワークを構築する必要があった。そこで、社員が多いという点を活かしアナリストにできるだけ多くのファインディングをさせて審査している。スタッフが多くカバー範囲が広いからこそできる芸だ。審査件数は多いものの実際に審査を通過するのは年数件程度である。


Burrillの特徴③ハンズオン投資

 多くのVC同様(日本のVCとは違い)Burrillでも資金を入れる際はリードインベスターをとることもありボードメンバーを送り込んで、経営に対する口出しもする。アクティビスト的投資スタイルはアメリカVCの特徴でもある。投資対象のステージはアーリーからレイターまで様々。


3 投資手法(投資までの流れ、デューデリジェンス、投資額・期間)

①毎週のMtgの流れ

 ⅰ投資先のモニタリング
 ⅱ新規案件の審査
 ⅲ継続モニタリング中の新規可能性案件の審査

Burrillでは以上のような順でMtgを行っている。機密情報なので中身は見せてもらえなかったが、数百ページの分厚いドキュメンテーションは迫力があった。新規案件はアメリカ・ヨーロッパだけでなく中国、インド、日本などもサーベイして投資可能性を探っている。

近年中国オフィスもつくったようだ。実際に投資に繋がる案件は最初の検討からあまり時間がかからないらしい。ⅲで長期間モニタリングしている企業は投資まで繋がるケースは少ないとのこと。投資まで早いケースだと2ヶ月程度。権藤さんのメーカー自身のベンチャーへの直接出資と比べるとスピード感は全然違うらしい。


②デューデリジェンス

 バイオの場合は技術デューデリがメインになるとのこと。バイオ系の知識が全くないのと、難しいのとでよく分からなかったがデューデリのポイントは「実際にどれだけ効くか、精度がどれだけ高いか」らしい。それも製品になる前のベース技術段階で評価しなければならないことも多く非常に難しそうだ。

例えば薬の場合。製品化されるまでに4つのフェーズがある。

前臨床::動物実験(正常に作用するか、副作用がないか)
フェーズ1:健常者への毒性予測(人に効くか、副作用がないか)
フェーズ2:薬効の容量設定(どの位の容量での効果があるか)
フェーズ3:目隠し実験(プラセボ(偽薬)などを用いて優位性をチェック)

全部のフェーズをクリアしてFDA(米国版厚生省)から認可が下りるまでに10年近くかかるらしい。どのフェーズで投資をするかも重要だし、投資をしたところで次のフェーズをクリアできなければ投資失敗ととてもリスクが高い。

ITやウェブ業界へのVC投資はマーケットトレンド(「エンタプライズ」「SNS」「仮想空間」などの消費者トレンド)が企業評価に与える影響が大きい。いい技術を持っていてもマーケットトレンドから外れていると評価は下がる。

しかしバイオの場合は消費者トレンド(そもそもあまりトレンドがないのかも)が与える影響は低いようだ。ただ投資対象としては製品化が成功した場合マーケットサイズが$100mill以上あるものが最低ラインと言う基準はあるとのこと。


③投資額・投資期間

 BurrillではシリーズAで投資する場合は$5million程度。シリーズB,C、Dから投資をはじめる場合もあり、また追加投資も行っている。投資期間は5~10年と長い。これはバイオ系の特徴で製品化までの期間が長いことに起因する。


4 バイオベンチャー投資の特徴と今後の流れ

①バイオベンチャー投資の特徴

・ 投資期間が長い
・ 技術中心の評価
・ アメリカが市場の中心

上2つは,3投資手法(投資までの流れ、デューデリジェンス、投資額・期間) 参照。市場の中心がアメリカというのは制度的な問題も大きいらしい。厚生省は新薬の使用許可に対して保守的で申請から許可までに長い時間がかかる。

それに対しFDAは新薬導入に積極的で短期間のうちに許可を与える。また学会ではほとんどが白人、ほんの少しの中国人、黒人はまずいない、とのこと。体の中に関わるデリケートな分野ということもありある程度無意識の差別が働いている可能性もある。ただ近年この傾向は是正されているみたいだ。

②今後の流れ

 権藤さんはpersonalized medicineがバイオ系の主流になっていくのではないかと予想していた。


Personalized medicine is the use of detailed information about a patient's genotype or level of gene expression and a patient's clinical data in order to select a medication, therapy or preventative measure that is particularly suited to that patient at the time of administration. (from Wikipedia)


personalized medicineとは個人の遺伝子情報を元に個々の患者に対して最適な治療を施す医療方法。ついに遺伝子情報を読み取る時代がくる。病気により最適なアプローチが可能になるのは嬉しいが、ちょっと怖い。


5 感想

 シリコンバレーのVCは日本のJ○F○OやN○Fといった大手VCとはあまりに違いすぎてびっくりした。このVCは比較的サイズの大きいサラリーマンVCだがそれでも専門家を上手い仕組みを作りビジネス(技術)をしっかり見ている。

J○F○OやN○Fのようにたくさんの企業に対しマイナー投資でポートフォオを組み、組確率論で利益を上げているようなVCとは異質だ。(一緒に言ったあなすっちゃーがいうに「日本のVCは未公開株投資信託」)

このようなLPを上手く利用した形のVCは優秀なベンチャーキャピタリストが不足している、日本でも利用可能なモデルではないだろうか。リードインベスターを勤め、人を送り込めるハンズオン方のVCがベンチャーを育てるためにも日本にもっと必要だろと話を聞きながら感じた。
 
 権藤さん、本当にありがとうございました。

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